[HOME][新着情報] [目次][講座シロクマ] [シロクマinチャーチル][フォトギャラリー] [玉手箱][素材] [掲示板] 

第七話 チャーチルだ!(その二)

    −ところであなたは誰?−

空港の係員に"私の荷物ないんですけど"と聞く。         

"外にあるよ"とこともなげに言う。なんと荷物は全て外に放置されたままだ。

”荷物 あるでしょう”  

寒風吹きすさび既に暗くなった中、置きざりにされた荷物を取りに行く。"やれやれ、よかった"。でも、ウイニペッグでチェックインをしたときに貰った、荷物の半券は、なんの意味だったんだろうか。

今までは、ロンドンやニューヨークなど大都会ばかりの旅だったから、勝手に決め付けた空港しか頭には浮かばない。

寒に立っていると、さきほどの係員が、"タクシーに乗るか"と聞いてくる。外にもタクシーを待っている人がいる。

"タクシーを待っている人が他にも2人いるから、いっしょに乗っていけばいい"と言う。 "寒いから荷物はそこに置いて、ターミナルに中に入りなさい"。荷物は大丈夫だろうか、と心配しながらも中に入ってタクシーを待った。ニューヨークなど大都会で起きたことなら、荷物があればラッキーだろう。ここでは、なぜか空港の人の言うとおりに従わなくてはならない気持ちになる。

”お客さん! タクシーが来ましたよ”と、まるで係員達も早く帰りたいためか、ターミナルから出ることを促す。他の客達も、一言も喋らず、タクシーに乗るため外へ向かう。

タクシーが来た、ぼこぼこのポンコツ寸前としか言えないしろものだ。"ドアー開いたら閉まるだろうか。まあいいか、空港に置いてかれるよりは"

タクシーのビニール製座席にあいた穴に指をつっこみながら外を眺めているが、灯りという灯りが何も見えない。信号などいくら走ってもない。ライトに凍った道路が浮かび上がってくるだけだ。道は、永久凍土のため平らかと思うと、そうでもなく少し高いところもあれば低いところもあり、ノンストップでタクシーは走る。

雪の砂利道を25分も走ると、やっと村の灯りが見えはじめた。チャーチルだ。

村に着くと、目指すB&B(民宿)、グードさんへは、3分も掛からない。平屋建てで西部劇に出てきそうな家の前に着く。

運転手に20ドル払う。タクシーが走り去った頃、70歳くらいで人の良さそうな白人のおばさんが、"よく来たね"と出迎えてくれた。         

 "ところで あなた誰?"と訪ねる。タクシーの運転手が他のグードさんと間違えて降ろしたのだ。無理もない、この町には、グードという名の家が少なくとも4軒はある。外でタクシーを待つほかない。

この町に一体、何台のタクシーがあるのだろう。1台でないことを祈る。こんな寒空に、なんでおっ立っていなければならないのだ。やってくるのがタクシーでなくシロクマだったらどうしよう。さらに暗い気持ちになる。

今日は、初日だ、あと三週間半!日本の家族の顔が"チラリ"浮かんだ。

 (完) (戻る)

(C)1997-2006,Hisa.