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『しろくま、ホッキョクグマの目は・・・夜でも見える』
大昔から、最も頼りにされている星は、北極星だろう。北アメリカ先住民は「不動の星」、中国では、「天帝」と呼んでいた。 日本でも江戸時代頃から「子の星(ねのほし)」、「北の子の星」、「北の星」や「一つの星」などと呼び船乗りの間では、知られていた。 太陽の46倍もあるこの星が瞬いている。位置は、北極点の真上で動くこともない。見える全ての星は、北極星の周りをまわっている。北極星が地軸の北(北極点)の真上に位置しているからだ。そのため大航海時代から旅の道しるべとなっている。どんなにか多くの旅人が、道に迷ったとき、この星に助けられたことだろう。 北極星の近くには,北斗七星がある(おおくま星座)。北極星が所属しているのがこぐま星座である。 もし北極星がなければ、地球の天辺近くにある町、チャーチルは、永遠に人が訪れることもなく、シロクマの王国は、神秘の世界に包まれたままだったろう。 * こちこちに凍りついた肉4ブロック(1ブロック=25キロ)を、飢えたシロクマの前で、車からなるべ遠くへ捨てるのは危険きわまりない。昼間、肉の塊を犬に与えているときも、シロクマは、隙あらば犬から横取りしようとしている。 危険に備えて、私達の間では約束事がある。それはシロクマが私達に視線を向けたなら,"ブラーイアーン"とゆっくりと叫ぶようにする。 シロクマがこちらに向かって動き出しても"ブラーイアーン、クマがー、うごーいーてーるぞー"とゆっくりと叫ぶ。しかし、50メートル以内に近づくか、足早にこちらに向かって動き出した時は"ブライアン!"と鋭く怒鳴る。 素早く銃をブライアンに渡すか、二人とも車の中へ逃げ込むようにする。勿論、吹きっさらしのなかで、写真を撮っている時、レンズの視野から見えないシロクマの動きは、ブライアンが監視してくれる。その時も同じだ、"HI―SA―HI−SA―、うごーいーてーるぞー "、そして"HISA!"と短く怒鳴る。しかし、今の暗さでは、シロクマは、簡単には見えない。 クマから自分達を守るため、少なくても3頭の犬は必要になる。犬の場所までは、100メートル位だろう。だが今の状況では、そこまで行くのは危険きわまりない。陽も落ち、薄闇に白く凍りついたツンドラのなか、シロクマの動きを捉えにくい。それだけにシロクマの恐怖が拡大する。 一体、この辺にシロクマが何頭がいるのだろう。中には500キロを越すシロクマがいるかもしれない。あらぬ方向へおびえが広がる。 弾ベルトに収まらない弾は、パーカーのポケットにねじ込む。銃も扱えない自分が,なぜかそうしている。ポケットの中の弾を握りしめていると気持ちが落ち着くのだ。消火器を小型にしたようなクマ撃退用のガス・スプレーを腰に付ける。最近は、クマ撃退ガス・スプレーは、必需品になっている。と言っても、まだ使用に成功したことのある人には、お目にかかったことがない。 食料として、ザックに、コーヒーと食べ残しのカリカリベーコン、それからクッキーを入れる。ホッカロンを何枚かポケットに突っ込む。風さえなければ、なんとか寒さはしのげるだろう。 しかし問題は、履いている靴だ。靴はカナダ製で、−70℃に耐えられる優れ物である。だがサイズがやたら大きい。重さが3キロ近くもある。歩行用というより、犬ゾリなどで移動するときの防寒用である。しかも行く手には、堅く凍ってアイスバーンの道が待ちかまえている。陽の落ちると、空気中の水分が凍って、サラサラとした乾いた雪のようになる。それが道路を覆ってつるつるに滑る。強い風が一吹きでもしたらでも、道路に立っているだけで、滑ってしまう。 軽く計算しても町までは、4−5時間かかるだろう。心配事というのは考えれば考えるほど、次から次へと出てくる。ブライアンは、いつもてきぱきと行動し、歩くのも速い。慣れていないわたしは,この重い靴でつるつるした道を歩いて彼について行ける自信がない。 "Hisa! 何頭シロクマが見える" もう7時も過ぎてしまっただろうか、いつもなら今頃は行きつけのレストラン「トレーダーズ・
テーブル」で仲間と、地ビールの"OV"を楽しんでいる時間だ。 (続く)
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(C)1997-2006,Hisa.