[HOME] [新着情報] [目次] [講座シロクマ] [シロクマinチャーチル] [フォトギャラリー] [玉手箱] [素材] [掲示板] |
2年2月17日 『しろくま、ホッキョクグマの目は・・・夜でも見える』 (その二) 凍りついた道を町まで車で走っても、30分以上はかかる。歩いたら何時間かかることか。民宿の女将アンが"一歩町から出たら、シロクマより寒さのほうがもっと危険よ!"と言っていたのを思い出した。 ここは凶暴なシロクマと寒さの揃い踏みだ。ブライアンの土地は80万坪もあり、むろん周りに家などない。道路まで二キロ近く離れている。その途中の岩影にシロクマが潜んでいるかもしれない。 40頭の犬たちと我々二人だけが、氷の王国に取り残されてしまった。ハドソン湾が,北極まで黒く大きな口をあけていた。あとは、どこからが空なのか見分けがつかないツンドラだけだ。腹をすかしたシロクマが8頭いると思うと,生きた心地がしない。 "Watch me!"は、ブライアンを常に視野に入れて,回りのシロクマを見ていろということだ。ブライアンは,ブライアンで私を視野に入れてシロクマを監視する。この方法だと,二人で360度を監視できる。極北の自然の中で生き抜く知恵だ。 暗闇の中で,ブライアンは銃に弾を込め、私に銃を持たせる。エンジンルームを点検し,故障の原因を調べている。シロクマが襲って来ても、銃など扱ったことのない私は,何の役にも立てない。エンジンルームを覗いていたブライアンは"ダイナモのベルトが伸びきってしまっている"と、説明する。 "車を押そう。そうすればエンジンがかかるかもしれない゛ ブライアンは,運転席のドアーを開けて車の外に出る。今度は弾を込めた銃を運転席に置いて,いつでも手に取れる手はずを整える。 シロクマが出たらすぐに乗るようにしろと言われても、背後からではどうしようもない。何度押してもエンジンはかからない。古くて重いトラックでは、少し押したくらいでは,びくともしない。 "ブライアン!前から押してみい。車をバックにしたほうがエンジン掛かりやすいかもしれない"。 目の前が異常に広く感じる。着ているパーカーが汚れようが、今はそんなこと言っている場合ではない。何とかして"空っぽ”の危険地域から脱出しなければならない。体の後ろには車があり,ブライアンが銃を構えていても安心できない。遠くでシロクマの目がダイヤモンドのように光っている。恐怖が現実的なものとなる。しかも一頭ではないようだ、我々の動きに合わせて目が動く。 "こっちに興味を持つな!。あっちへ行け!゛ "夢なら覚めてくれ。こんなことって映画の一場面だよな。きっとそうだよ!"とわめきたくなる。恐怖はいや増しに増してくる。 "Hisa!車に乗ってくれ" "そうか"とブライアンは言いながらも、真っ暗な中でキラキラと光るシロクマの目を追う。こんな目に会わせて申し訳ないと思っているのか、しかし極北の達人の冷静さは変わらない。彼の持ち合わせている大自然に生きる術なのだろうか。 ブライアンは、"そうだな・・・・問題は、荷台に載っている餌の肉100キロだ。肉をなるべく車から離れたところに捨てなくてはならない"と言う。話しながらも、手はガンベルト(弾帯)に掛かっている。 ブライアンの頭の中には、肉を積んだ車を放置することは許されないのだ。嗅覚が鋭いシロクマが,車を襲って肉にありつけると知ったら、片っ端から車を襲うだろう。それは、人の命まで危険にさらしてしまうことになる。 (続く)
|
|
|
(C)1997-2006,Hisa.