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     2年2月10日 New !!

『しろくま、ホッキョクグマの目は・・・夜でも見える』
 

(その一)
 −チャーチルでは、しろくまより寒さのほうが怖い−

全身真っ白なシロクマは,白い氷や雪の中では見分けがつかない。わずかに黒いところは目と鼻だが,体の割に小さいから目立たない。小さい目でも,視力は人間以上ある。しかも暗くなっても猫の目のようによく見える。
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森の中や広い海に行くと、心地よいエネルギーを感じる。都会ではそのエネルギーが吸い込まれてしまう。擦り減ってしまう。大量の情報の中で,なにが人生に大切なのか、何を棄てるべきか分からなくなってしまう。それがストレスとなる。頭の中で秩序立ていくためには、自然に接することが必要だ。

"たまには、山へ行っていってよい空気を吸ってみたら。海に出かけて、波に足をつけてみてごらん。そうすればいい考え生まれてくるよ"
春に萌えだす新芽、雪解けの水、それは元気づけるささやきに聞こえる。

地球の地肌がそのまま露わになっているようなチャーチルでも、同じことが言える。人間は、どこにいても内なる自然ががあるからだろう。町から一歩出れば,「空っぽ」なここでは、自然だけしかない。それは文明をはるかに超えた世界でもある。生きとし生けるものが、宇宙の法則に則っている。「野生の心」というのだろうか。

シロクマが現れる11月頃になると、寒さの上にシロクマの危険が加わる。

"チャーチルではね。シロクマの怖さより、寒さのほうが怖いのよ。町外れで車が故障したら,町まで歩いていけない限り,生きる術はないわ。お酒なんかもっての外。外で眠ったら、一巻の終わりよ"と、宿の女主人アンが口癖のように言う。"どちらも、くわばら、くわばら・・"
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二日掛りで、ウイニペッグからやって来る汽車は、チャーチルが終着駅である。汽車が到着していなければ,駅は風の音くらいしか聞こえない。風がない日は、"ジーン゛と、鼓膜にあたる空気の音だけが聞こえてくる。ここはだだ広い極北の一点でしかない。

駅で働く人がいるはずだが,姿を見たことがない。駅の北側には、寒風に肩を寄せ合うようにして家並みが続いている。その数100軒くらい。西外れの港では,10月の終わりになれば働く人の姿はない。海が凍れば港は使えないからだ。今朝、車の中に置いておいたジュースも,シャーベット状に凍っていた。
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毎年秋になると、数百頭を越すシロクマがアザラシを狩るためにチャーチルの周りに集まってくる。町の中や周りで危険のため捕獲されるシロクマは、毎年100頭くらいになる、まさにシロクマ王国の首都と言われるわけだ。

シロクマは、秋のアザラシ狩りシーズンが到着するまで何も食べず,お腹は数ヶ月空っぽのままだ。ハドソン湾が凍ると氷の上でアザラシが息継ぎにくるのを待ち構えている。ところが地球温暖化のためなのか11月になっても凍らない。凍らなければシロクマは,お手上げだ。さすがのシロクマも海の中ではアザラシにはかなわない。

"昨夜ね。庭でペチャ,ペチャと音がするので覗いたら,白くて大きなものがいたんだ。なんと大きなシロクマが、小鳥の餌にしようと置いた肉の脂身を食べていたんだ。慌てたね゛と近くの人が言う。庭に入り込んだり、道路に現れる話は,ここではニュースにならない。それも昼夜関係なくだ。

チャーチルの外側は,ツンドラだけが地平線まで続く空っぽの景色だ。   "退屈しないか?"とブライアンが気遣う。"
"とんでもない。毎日が違う物語の連続だよ!"と答える。           ブライアンは いつも”そうか”と満足そうに頷く。見る限り景色は空っぽだが,感性を鋭くしていれば見えてくるものがある。

犬のブリーダー(繁殖者)であるブライアンは,毎日たくさんの犬に大きな肉の塊を餌として与えている。餌の鶏肉や牛肉は,ウイニペッグから2日がかりで運ばれて来る。365日、いかなる天候でも、犬に餌をやらなければならない。

11月ともなると,午後3時には陽が沈み始めて、4時にはすっかり暗くなる。ブライアンの広大な犬の飼育場は、シロクマの撮影場所として、映画,テレビなどプロのカメラマンの間では、チャーチルで最も有名な所である。陽が沈むと、撮影する人達が帰ってしまう。あとは,40頭以上もいる飼い犬の点検をして、餌を与えたりし、町へ帰る。

ブライアンは、ゆっくりコーヒーを飲み、タバコを一服すう。"ブライアン。今,何頭シロクマがいると思う?"と聞くと、"少なくても8頭はいるな"と事も無げに言う。
"とんでもない。8頭もいたんじゃあ,逃げれられないよ。写真を撮るには3頭もいれば十分だよ"
                *

オレンジ色だった太陽が、急速に紫色に変わっていく。一分ごとにカメラのシャッターを切り,刻々と変わる空を撮影していた。         "Hisa!撮影は終わりだな。さあ、帰るか!"

すっかり暗くなった車の中で、カメラ機材を鞄に詰め、帰り支度にとりかかる。
ブライアンは車のエンジンをかけようとした。ところがいくらキーをひねってもエンジンがかからない。陽が沈んだあと、温度はマイナス15℃くらいだろう。携帯電話などここにはない。・・凍りついた湖は、にぶく光っている・・・・・・。(続く)

 

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