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地球と太陽のささやき、オーロラ

写真撮影(その三)

 ―クマの危険、そして 機材で埋まった小屋は冷蔵庫の中より寒い―


小屋は、外見こそそう古く見えないが,築三十年位は経っているだろう。ここ数年はほったらかしだったとみえ、かなり老朽化している。だが、今までに調べた中では,撮影条件に一番合致している。                                  

近くに人家がないから、灯りもない。

 小屋はL字型に建っていて、建物が西と北側が風除けになる。そのため冷たい北風を遮って、寒さから身を守ってくれるはずだ。

 建物の東と南側には大きなベランダが巡らされている。ベランダの先は,凍った湖だが、東側をトラックでブロックをし、南の湖側に大きな釘をハリネズミのように打ち付けたシロクマ防止柵を並べれば、一応のシロクマ対策は講じたことになる。後は建物のガラス窓の下に防護柵を置くようにすればよい。

小屋は、寝室が一つ、リビングダイニングと大きなガラス窓のあるサンルームがついている。トイレはあるが,大型のオマルと言ったところか。トイレとの間仕切りには,カーテンが一枚あるだけ。外で用は足したほうがよさそうだ。

 電気はきていないが,プロパンガス・ストーブがある。なかったら氷点下20度で凍えていなければならない。
撮影機材の搬入と設置の準備には思ったより時間がかかった。日本から運びきれなかった発電機、電線コード、ロープ、大量な5寸釘、板、板うち用金槌などは、町に一軒だけある金物屋まで買いに行かなければならない。そこがだめならリースで借りてくるしかない。

撮影機材は、大型の三脚、電気がないので照明器具、湖面に設置したカメラから引くためのコードなど、ジュラルミン製の大型トランクを何個にもなった。それに飲料水や食料、非常用も考えたのでその量はかなりになる。

カメラ用三脚一つ運ぶのにも、風が強い日には倒れそうになる。電気コードだけでも大変な重さになる。それに、たくさんのカセットテ−プ、バッテリーや充電器と、歩くのもままならない。UさんとYさんは,注意深く機材やコードを整理しているが、撮影現場に慣れてない私には、いつ機材を壊すかと気が気ではない。床中にコードが張り巡らしている。高度な機材の近くはなるべく歩かないようにする。

この寒さの中、車のエンジン・スタ−ト、照明やバッテリーの充電のために発電機や予備のガソリンは欠かせない。どんな綺麗なオーロラが出ても、発電機が故障したら、撮影はできなくなる。

"ゴーゴー"と古いながらもプロパンガス・ストーブが心地よく働いた。とは言えガス臭くて、"ガス臭いぞ。窓を開けよう"と、時々窓を開けなければならない。窓を開ければ、肌指す冷気が、容赦なく吹き込んでくる。

家の中では,仮眠をとるときも、食事をするときも、分厚い羽毛入りのパーカー上下を着込んでいなければならなかった。温度計がないが、部屋の温度は,ゼロか少しプラスだろう。家庭用の冷蔵庫の中は、8度くらいだから,この部屋の中は冷蔵庫より寒そうだ。しかし、慣れてしまえば、この寒さの中でも結構快適に過ごせる。

本当は,家の中にいると言うことだけで、シロクマに襲われないという安心感が、気持ちの上で暖かくするのかもしれない。
オーロラが出た時に備えて、常に厚着をしているので、手袋をしてそのまま外へ飛び出すことができる。

カメラも寝袋のような厚手のカバーで覆ってある。それでも間に合わなくて,バッテリーでカメラを暖める。そのバッテリーも寒さのため、すぐに出力が弱くなり使えなくなる。そうなると、発電機で充電しつづけなければならない。"何でこんなところで撮影をしなければならないのだ"。(続く)

 


 

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