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宿の家族 −B&Bは、極北の情報源− 朝7時、靜かな宿に"ポコポコ、ポコポコ"と心地よい音がかすかに響いている。宿のおかみさんのアンがコーヒーを沸かしている音だ。そのコーヒーの香りも漂ってくるような気がする。朝食のフレンチトーストを、"ジュージュー"と焼いているおいしそうな音も聞こえてくるし、もうすぐ小学生の8歳の息子と6歳の娘が学校へ行くため起きてくるだろう。"アン、おはよう"と精一杯の笑顔で朝の挨拶をする。 "Hisa,おはよ う。元気?"が、毎日の始まりの儀式だ。"今日は、トースト何枚にする? ベーコンと ソーセージどちらがいい?"とアンとのおしゃべりが始まる。いつも明るい彼女は、働き者の上、たいそうきれい好きだ。自分はタバコを吸うのに、決して家の中ではタバコを吸わない。雨の日でも,ブリザードが吹き荒れているときでも,防寒帽をかぶりコートを着て、タバコを外ですう。 "寒くないの!"。"大丈夫よ。家の中でタバコを吸ったら、匂うし、壁汚れてしまうでしょ。"とにこやかにしている。ホテルでも、前に泊まっていた客が、タバコを吸うと、臭いから部屋変えてくれと言う人が増えたからだ。このB&Bの快適さも、お客を大切にしている事である。 それに、いつも夜寝る前に、翌日の予定表をきれいな字で書いている。 1.アイザック(息子)に,昼食代5ドル渡す。 2.マディ(娘)に、お弁当そして デザートにりんごひとつ、 3.Hisaのシーツを換える、 4.食パン2斤、ベーコ ン一袋,ただし賞味期限に注意して買う。 5.学校の先生のインタビューをお願いす るため約束をとる。 6.……。 いつもこの調子だ。彼女とその心温まる家族に出会う ことがなければ、とてもここ極北の地に何度も来ることはできなかっただろう。 宿のことは,チャーチルへ来る前、いろいろなことを考えた。ホテルにするか、B&Bにするか、それとも米国のツアーに参加するか。宿の値段はやや高いが,日本や米国に比べれば問題ない。ホテルは,プライベートも守られ、気ままでいいだろう。 し かし、外で遭難してもわからないし、情報も入らない。B&Bは共同生活をしなけれ 決めたのは,B&Bだ。(チャーチルのB&B) この家は町の南と東のドン詰まりにあるため、窓から果てしなく広がる景色が見渡せる。窓から見えるこの世界は、日本では見慣れぬものだ。10月末の今頃、尾瀬、北海 外の温度計を 見ると氷点下15℃だ。宿は暖房がゆき届き、凍りついた外とは別世界だ。 部屋の南側 の窓からは、鉛色をしたツンドラが何の境もなく、これも鉛色した空へと続いている 。 東の空には、細い金色の線に見える陽光が、どこまでも続く極北の大地と空を区切っている。まだ時間がかかるが、太陽が昇ろうとしている。上天気を予感させ、そして何事も嬉しくなるような気にもさせてくれる。 この3日間、容赦なく吹き荒れてい た嵐、ブリザードが止まった。強風にあおられ、家が地震のように揺れ動いて、寝て いるベットはまるでゆりかごだった。睡眠不足の目をこすりながら、外に出てみると 、家の外壁が、昨夜のブリザードでめくれてる。木製の 郵便局の外壁もほとんどめ くれてしまった。 大自然の驚異を見せつけられる。風速110メートルという記録的な ブリザードで、地元の人たちも記憶にないという。聞けば測候所の風速計は110メー トルまでしか 計測ができないそうだから、もっと強く吹いていたにちがいない。今は 、朝まで続いていたブリザードが嘘のようだ。
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(C)1997-2006,Hisa.