チャーチルの夏、命輝くところ
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チャーチルの夏、そこは命が輝くところ
 極北では、尺度が違う

(その十)ベルーガ,シロクジラ,シロイルカC 〜 ダンスを一緒に

ベルーガは、クジラかイルカなのか? 答えは、どちらでもいいようだ。

学名Delphinapterus Leucasは、白いイルカという意味なので、日本(和名)ではシロイルカと呼んでいる。英語名では、シロクジラ、White Whaleと呼ぶ人が多い。だが、カナダではベルーガ・クジラ(Beluga Whale)と呼ぶ人が多い。そのため、チャーチルでも、クジラと呼んでいる。

だから、ここでは観光業者は、ホエール・ウオッチング(クジラ見物)という。

学問上でも、はっきりした分け方はなく、どちらもクジラ・イルカ類である。大まかに言えば、4メートルを越すのをクジラ、それ未満だとイルカとiいう。この分け方でいけば、ベルーガは大人になると5メートルを越すから、クジラといえる。

昔の捕鯨者の間は、その鳴き声から Sea Canary、海のカナリヤとロマンチックな呼び方をしていた。 長い航海でベルーガの声を聞いて、遠い故郷で聞いた鳥の声が懐かしく感じたのだろう。

シロクマがベルーガを食べるか?

シロクマが泳いでいるベルーガを泳いで殺すのは、話としては面白いが、チャーチルでは答えはNOである。正確に言えば、死んだり、何らかの理由で浅瀬に打ち上げられて死にそうになったのは食べられてしまうことがあるという。

しかし、しろくまが泳いでいるベルーガを捕まえて食べるのは不可能である。                         

ベルーガの声は相変わらず、カヌーの底を震わせている。その時、4頭のベルーガが、我々のカヌーの後をつけ始めた。

真っ白な中に、一頭だけ灰色をした子供がいる。先ほどからの声の主はこのベルーガだろうか。

"Isa!"と大声を出す。彼はケベコワ人(フランス語圏のケベック州出身)だからあまり英語が得意とは言えない。子供を怒ったり、興奮したりするとフランス語になってしまう。フランス語圏の人は、HisaのHを発音できない。

彼の娘のマディが父親にしかられると、私の部屋へうっぷん晴らしにくる。”Hisa。パパはね。変な英語とフランス語で怒ってるの”と身振り手振りで、フランス語をけなすのが面白い。ここは人種や言葉のモザイクの国だ。

"Isa! ベルーガの2つの目と合ってしまった!”と騒ぐ。遠来からの旅人を歓迎しているのかな。大自然の驚きを伝えようとする彼の気持ちがうれしい。

やや暗くなり始めた水の中から、立ち泳ぎをしながら、我々を見ている。水の中なら、二つの目が輝いている。時には二頭、並ぶこともある。

"レイモン! 僕も目があったぞ!!見ろ!首を振っているぞ。何か伝えようとしてるのじゃないか"

"うん、前後にな。Hisa! 鼻から泡ブクだしてるぞ。口をつぼめて、話しかけているみたいだ。それもとてもゆっくりとな"。立ち泳ぎをして、きょとんとして、首を曲げたままこちらを見ているようだ。

もし、宇宙人と遭遇したなら、挨拶はこんなスタイルかもしれない。

こちらをすっかり信頼したのか、それともたくさんシシャモを食べて満足なのか、ベルーガは、水面すれすれまで首を振りながら現れる。まるで白い人魚が ”Shall we dance? 踊りましょ”と我々を誘っているようだ。

ベルーガの動きは多彩で、しなやかである。人間の動きによく似ている。立ち泳ぎもできるので、芸も良く覚え、水族館の人気者である。飼育係が発する声や音をよく聞き分ける。

イルカやクジラは、頚骨のいくつかはくっ付いているので、首を動かすことは出来ない。しかしベルーガは、7つの頚椎(首の骨)をもっているので、首を前後や左右に振ったりすることができる。そのため立ち泳ぎをしながら、周りが見える。

もう夜中の12時だ。いつの間にかあたりは暗くなっていた。ようやく、カヌーを川岸につけた。

大自然を胸一杯すったあと、どちらからともなく手を出して握手をした。"やったね"と、興奮を何時までも抱きしめていた。



真っ白な人魚たちとの交流は、時間を忘れさせた。心地よい疲れの中、カヌーのパドルをかついで、家路を急ぐ。夏とは言え、シロクマがいないか、気にしながら歩く。

”ラッキー”。その時、東の空に、オーロラが現れた。薄く、綺麗とは言えない。もちろん珍しいことでもなく、少しの忍耐も持てば見られるが、夏にはオーロラはでないと思う人が多い。

でも、今日のたくさんな物語に、オーロラまで加えられたことでも満足に胸が高まる。

極北の夏、限りなく命が輝く大自然の中では、二人は”無”としか言いようがない。そんな限りなく小さな地球のかけらでも、壮大な大自然の一こまになっている。”スー”と、胸一杯に吸った冷気が、充実感を大きくさせてくる。

寝るときには、日本の家族や友人に、こんな体験をできたと感謝も込めて”おやすみなさい゛を言おう

 (ベルーガ,シロクジラ,シロイルカ編・完)

 

しろくまとのおはなし

(2)自然は 不思議だね

 

 

 

 

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