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しろくま、ホッキョクグマは,泳げる?NEW!!3月24日02年
      (その一)
 −しろくまは、泳ぎの達人―

"Hisa!シロクマが腹這いになっているぞ"と、100メートルくらい先を指さす。なんと巨大な白クマが周囲3キロくらいの凍った湖の上で、後足の裏を空に向けてへばりついている。その足の裏には、毛がびっしりとはえている。何ではえているのだろう・・・

少し前までは薄い氷の上で、体重の分散をはかるべく懸命に両足を広げて、アメンボのように歩いていた。
恐る恐る歩いているうちに足を広げすぎて、腹這いになってしまったのだ。その姿は,まるでつきたての”のし餅”のようにぺったんこの姿をしている。なかなか動こうとしない。寝てしまったのか、動いて氷が割れて水の中に落ちるのを怖がって動けないのか・・・。

雪、湖、クマ、キツネ、雷鳥、そしてうさぎも、ここの世界はみんな真っ白だ。目を遠くにやっても、白く凍ったツンドラだけの景色が広がっている。白一色では区別のつけようがない。白だけの世界にも、じーっと見れば、たくさんな「白い物語」がある。感性を研ぎ澄ませば、こんな真っ白なチャーチルでもたくさんの宇宙からの贈り物受け取ることが出来る。
   *
朝のうちは、凍りも厚かったが、午後になると気温が上昇して、湖面の氷がゆるんでくる。朝晩は-20℃でも、二日やそこらで湖は結氷しない。ハドソン湾も白く凍りついたように見えるが、風が吹くと波立ち、水面がシャーベット状にうねっている。

そんな頃,凍りついた湖の上を歩くと"ミシミシ、ザッ・ザー"と不気味な音が聞こえてくる。氷が割れて筋が走る時に発せられる不気味な音だ。次に"ビッシ"と勢いよく氷が割れるのが分かる。割れ目から水が浸み出て、氷が大きく割れるのではないかと、恐怖に襲われる。もし氷の割れ目に落ちたら、このデカイ靴、部厚いパーカーを身につけていては、這い上がることは難しい。5分間もすれば体温が奪われ、映画「タイタニック」のラストシーンを迎えるだろう。  
 
シロクマへ15メートルの所まで車で近づき写真を撮っていた時、シロクマが"うるさいなあ"と苛ただし気に、黒い鼻を少し曲げて動き出した。

20メートル歩いたとき、氷が割れて、"ズブズブ"と音を立てて沈んでしまった。"沈没だ゛とブライアンは、大声で笑う。見慣れた光景なのだろう。
"大丈夫、シロクマは泳ぎの名人だ"。水中でも慌てることなく、見事な身のこなしで泳ぎまわる。

"Hisa!急げ!そら!潜ったぞ。何分潜れるかな。どこに浮かんでくるかだ"
"ブライアン!写真とっている間、僕をしっかり見ていてくれ!"と声をかける。
"分かった。それより走るんだ!お前カメラマンだろ。チャンス失うぞ"。こうなるとガイドなのか、写真の先生なのか区別がなくなる。

写真を撮りながら車のなかのブライアンを見ると、車の窓越しに銃を構えているのが見える。カメラマンは、カメラのファインダーを覗くと、周りの状況は目に入らない。被写体に集中するあまり、自分勝手になってしまいがちだ。自分が危険にさらされると同時に、回りの人に迷惑をかけてしまうことになる。

シロクマは,もう浮かび上がってこないかのように長く潜っている。ほんとうは1-2分だろう、まるで潜水艦のようにゆったりとしている。いばらくすると音もなく、頭から滝のように水を滴らしながら浮上してくる。時には立ち泳ぎだろうか、あたりを見渡したりもする。

"ここは俺の世界だ゛と、極北の王様は寝そべる。怖いものはこの世にいないようだ。
氷上で、あくびなのか、時々大きく口をあけている。まるで日光浴をしているようだ。舌は紫色をしていて、所々肌色の縞模様になっている。真っ黒な口の周りに真っ白な歯がのぞく。

 そのうちに、浮いていた直径1mもあろうか氷の塊を見つけると、前足で抱え込むようにし、お腹の上に乗せて泳ぐ。まるでラッコの食事風景を見ているみたいだ。時には,両手で抑えた氷にかぶりつく。"ガリ、ガリ"と氷をかじる音が聞こえてくるようだ。

"ブライアン!シロクマは水の中で寒くないのか?゛と聞くと,"全然寒くないよ。
外気が-10℃では、シロクマにとっては暑すぎる。時々身体を冷やさなくてはならないくらいだよ。Hisaがこの水に入ったら、10分くらいでお陀仏さ゛
と笑いながら言う。

まるでシロクマは、水の中がもっとも居心地の良い場所とでも思っているのか、1時間くらい氷点下の泳ぎを楽しんだ後,氷の淵まで近づいてきた。上半身を氷盤の上に乗せ、すかさず、後足の爪を氷の淵にかけて大きな身体を押し上げる。

このクマは400キロ以上もあろだろう。軽々とした身のこなしをみせ、"ザー゛と水を滴らせながら湖から上がってくる。少し歩いて、"ブルン,ブルン"と大きく頭を振る。びしょぬれの犬が身体を振って、 水気を払うのと同じだ。

その水しぶきは、太陽に輝いて、空高く飛び散る。毛についた水気を拭うために、身体をごろごろと雪にこすりつけながら転げまわる。時には、仰向けになり、お腹を上に向けて、背中もこすりつける。でかい図体をしていても、結構かわいいものだ。自然にこっちの顔もほころんでくる。極北の空気を大きく吸い込んで、シロクマと一体になる。
氷が浮かぶ中で泳いだ後も、雪にこすりつけているなんて、なんと寒さに強いのだろう。,10センチ以上もある分厚い脂肪層を持っていれば、体温は保たれるわけだ。
脂肪層は,体力の源にもなっている。

"ハドソン湾で、泳ぐシロクマは見るが、湖のシロクマは、そうチャンスはないぞ。お前はラッキーだ“
まして写真を撮れるなんて。なんという幸運なことだろう。

(つづく)

 

 


 

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(C)1997-2006,Hisa.