地球と太陽のささやき、オーロラ
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太陽からのメッセージ                     オーロラ、地球と太陽のささやき

  オーロラを求めて―写真撮影(その 七)
  −達人たちと一緒に−

  −出た!!真っ赤なオーロラ、それは大自然のダンスだ―                                         


11時、"オーロラ出たのではない?"と、Uさんが叫んだが、オーロラなど見えない。見間違えなのだろう。それでも雲が少し切れ始めた。マイナス100度Cにも耐えられるブーツを履き,ビーバーの毛皮で出来た帽子をかぶり、厚いダウンの上下の防寒着を着こんで、オーロラの出現をひたすら待つ。ガスヒーターからガスの燃える音だけが聞こえてくる。

それからどのくらい時間がたったのだろうか。相変わらず15分ごとに"クマのチェックを、お願い!"が続く…・・。
深夜2時近く、南に面した窓ガラス越しに空を見ていたUさんが,"Hisa! オーロラだ!"と叫ぶ。Yさんがすかさず"赤いオーロラだ!Hisa!クマのチェックを、お願い!゛と言いながら5−6メートル先にあるカメラに急ぐ。

赤いオーロラは、きわめて珍しく,科学者達にとっても夢である。11年毎に起こるデリンジャー現象(黒点大出現)で、強い太陽風が地球の磁力線と強く衝突する時にだけ出現する。

神秘的な天体ショウ。私も窓際に置いてあったクマよけスプレーと大きな音が出るホーンを抱え、首から懐中電灯をさげて飛び出す。外気温はマイナス20度C以下だろう。

"プワー、プワー"とクマ除けの大きなホーンの音が凍りついた湖面に響く。シロクマへの警告音だ。暗闇の木の陰にいる雷鳥の耳にも届いているだろう。                   

"シロクマよ。出てくるな!邪魔しないでくれ!!今夜だけは。頼むから"と祈る。

小屋の中では、Uさんがモニターにしがみついて映像を追っている。"Yさん!決めろ!決めろ!"と、小さな無線に向かって叫ぶ。Yさんには,カメラのファインダーごしでは,色合いまでわからない。モニターで色の確認ができる。"右だ。早く!決めろ""これでいいか!ファインダーからでは、分からん!゛と、無線に怒鳴る声が、凍った空に吸い込まれていく。

"Hisa!バッテリーを持ってきて、ごめん。こんなこと頼んで"と気遣いも忘れない。"何でも言ってくれよ!!゛と、今,彼らに頼まれるほうがむしろうれしいのだ。
10メートルも離れていると、小さな無線機では不十分だ。"Yさん。ちょっと待って。小屋のUさんに聞いてくるから"。3人は、一体となって、連携を強めていく。
   *

少し前までは,薄い雲が漂っていたが、"オーロラが出た!"の一声で、重苦しい空気が一瞬にして払いのけられた。天空ショウの開演ベルだ。私だったら、"赤いオーロラは俺が最初に見つけたのだ゛と手柄ごかしに言うだろう。だが,Uさんは冷静に撮影の指示をだし続けいる。手柄などどこ吹く風とモニターに向かっている。彼にとっては、仕事に過ぎないなのだろう。その冷静さこそプロの姿なのだ。

真っ暗な夜空に,オーロラは神秘のベールをついにはいだ。オーロラが雲さえ吹き飛ばしたのか、星が瞬いている。

赤く揺らめく音のない舞踏会,神秘的な世界.
オーロラは我々に何を伝えようとしているのか、赤く妖しく舞うばかりだ。静かに烈しく。

妖しげな光を放つ不気味な芸術                             オーロラは,北東の方角にあった。移動したのか、今は大きさも色も変えてツンドラ特有な針葉樹の森の上に覆い被さるように南西側に広がっている。
今現れているオーロラは、天空からカーテンを吊り下げたようにも見えるし、地面を駆け上がるようにも見える。綺麗と言うより恐怖を感じる。赤いオーロラの下のほうは黄緑がかり、華麗で繊細な色絵巻を繰り広げている。その繊細さが、神秘的世界へ引きずり込むのだろうか。オーロラはまさに太陽と地球のささやきだ。誰も撮影中には、余分なことは言わない。大自然の驚異に立ちすくむだけだった。

"これは凄いぞ。こんな色見たことがない。今までのオーロラ撮影はなんだったんだろう。"と北欧にオーロラを撮影に行った事があるUさんは、モニタースクリーンを見ながら叫ぶ。
"高感度なカメラで撮影したのは、世界ではじめてだぞ"とクールな彼も声を震わせているような気がする。
゛ここは,大自然と言う舞台にある氷の特別観客席だ!"(続く)

 

 

 

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