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地球と太陽のささやき、オーロラ
写真撮影(その五) − くま対策には、ハリネズミが一番 − "歩く時には、シロクマに注意してね゛の一言は、ここでは日常会話だ。日本で子供たちに"車に気をつけなさい。信号は守るのよ"と言うのと同じことだ。 "暗い所を歩くな。昨日、家の裏にシロクマの足跡があったぞ!家へ帰るなら車がないと危ないぞ゛寒さより、シロクマのほうが危険であるからだ。 撮影に決まった小屋にも、大きなガラス窓には取り外し式頑丈な板製の覆いがしてある。ここでは泥棒などと言う言葉はないから、この板戸は大風からガラスを守るか、シロクマに小屋が荒らされないためだ。 "ハリネズミの家"は、珍しいことではない。前日から私は,机の大きさくらいの板を10枚くらい買い込んで,板に5寸釘をたくさん打ちつける。いままで何回もチャーチルへ来ていたが,クマよけの防護柵まで作るのは初めてだった。 極北の町では、板を手に入れるのも簡単ではない。そこは,5年もチャーチルに通っているとキャリアがものを言う。 以前にも約束をした人がこなかったことがある。理由を聞くと、"港で,荷物運びの仕事が入ったから"と、涼しい顔をして言われたことがあった。これもチャーチル・スタイルなのかと、それ以上追求することはしなかった。自分だけなら、たとえ会えなくても、1時間くらい遅れてもなんとも思わないが、今回は仕事だから話は違う。 多くの町の人は、一度親しくなると、その親切は並ではない。常に、会うたびに、ニッコリして、"おはよう!元気!"など愛敬を振り撒いておいたのが相当役に立つ。反対に、一度信用を落とすと、挽回は難しいと聞く。 多くの町の人は、2〜3種類の仕事を掛け持ちにしているのが普通だから,5〜6人の親しい人がいると相当な戦力になる。カフェやパブ(居酒屋)に顔を出すことは、付き合いの上で大切な意味を持つ。 "Hisa!クマよけの防護柵つくりするのだって!そりゃ、大汗ものだな!"と野生生物保護局の役人が声をかけてくれる。この時期、野生動物保護局の人は,人間をシロクマから守るため、24時間体制でパトロールをしている。いつも,"車の外では、シロクマの撮影は危ないよ!車の外で撮影するな!"と忠告してくれる。だから、このクマ防御柵作りにも、真剣に心配してくれる。 泊まっているB&Bで、"バン!バン!"と板に釘を打ち付ける。そのうちに、近所の人が覗きにくる。"何の音だと思ったら、Hisaか!板うちか。大変だね”と同情してくれるが、みんな板打ちは慣れているので珍しがらない。 小屋へ移動の前日、みんないないので、T日かけて、一人で板に釘を打ちクマ防護柵「板」を作る。なれない悲しさ、体中が筋肉痛になる。さらに大変なのは,手が寒さで凍えてしまう。寒さ除けに手袋をすれば,今度は釘がうまく打てない。パーカーを着ていると、暑くなりすぎて汗が噴出してくる。そこで脱ぐと、またたくまに冷えあがってします。ハリネズミつくりも、けっこう疲れる。本音では,こんなハリネズミくらいでシロクマ対策になるのか疑わしい。気休めで終わってくれなければいいが。 "神の子として生き,勇気を持った写真家、ここに眠る"なんて、石碑が建ったのでは、様にもならない。 最近では、観光ガイドもよくベエー・ガス(クマ撃退用スプレー)を持っている。それは,火災消化器を小型にしたようなもので、観光ガイドには必需品である。中身は、唐辛子のようなものが入っているそうで、クマにかかると、飛び跳ねて逃げると聞く。 しかし、まだ実際に使ってクマを撃退した経験のある人には直接お目にかかったことがない。風が強い時にはどうするのだろう。西部劇では、腰にピストルをぶら下げているが、チャーチルでは、ベア・ガスをぶら下げているので、まさにピストルの代わりになる。 サッカーの試合などで応援団が"プアー"と鳴らしているホーンも欠かせない。これは練習もできるし,風の向きにも関係ない。ホーンは,昼間撮影に行く時でも,持っているだけで安心である。不思議なことだ。 ベア・ガスとホーンは、いつでも手が届くところに置く。小屋へ入り口をシロクマに破られた時のために、二つ目のドア―の後ろに置く必要がある。 "みんな聞いてね。もしシロクマにドア―が破られたらこのスプレーとホーンを使うのだよ" 勿論トイレのため外へ行く時もだよ"とここでの掟を伝える。(続く)
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(C)1997-2006,Hisa.