チャーチルの夏、命輝くところ
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チャーチルの夏、そこは命が輝くところ           極北では、尺度が違う

(その五)蚊の攻撃@

ブライアンと夕食の約束のために家を出る。夕方7時、まだ日は高く、温度も15℃くらい。だからと言って油断は出来ない。日が落ちると、温度が急激に下がって、東京の真冬になってしまう。雪が降ってもここではニュースにはならない。

手袋はともかく,帽子とフード付のパーカーは欠かせない。その下には、厚手のフリースを着ている。それがここの真夏なのだ。天気が良ければ、まだ太陽が燦々と輝いているだろうが、今は雨が降りそうなので,日本製の傘も持っていこう。

チャーチルは風が強い日が多いので、町の人は傘を持ち歩くことはしない。日本の番傘で歩いたら、この小さな町(村?)では大変なニュースになるだろうな。

犬との散歩を楽しんでいたアンが帰ってくる。冬のイメージが強すぎるのか、散歩を楽しんでいる人を見るにつけ、何だかチャーチルみたいではない。

"Hisa、これから夕食に行くの?蚊よけのクリームを使った?"とアンが心配してくれる。

アンのフードの周りに10匹くらいの蚊がとまっている。彼女は手をぼりぼりとかきだす。

”Hisa。今日の蚊はやたらに刺すのよ”と不愉快極まりなく怒ったように言う。

"大丈夫、蚊が出たら走っていくから"と言う。実はそれがとんでもない無知であることが後で分かる。

    *

宿から歩いて2分も経っただろうか、パーカーのフードがパリパリと音を立て始めた。

"雨かな?"。そのうちに、あられのような降りかたになって来る。”変だぞ。ウーン雨とは違う"、顔を上げてみれば, 何と蚊の大群の猛攻撃である。

傘を振り回して追い払う。手も振り回す。手のひらでフードや顔をたたく、頭や身体も蚊を追い払うためにたたく。体の回りは蚊だらけだ、100や200匹どころではない。執ように、つきまとってくる。いらだちが走る。

”皆殺しにしてやる!!”

一回、パーカーに停まっている蚊をたたくだけで、おそらく十匹位がつぶれる。バンクーバーで買った防御ネットも宿に置いてきてしまった。道路の真中のほうが、蚊が少なくなるかも知れないと移動する。

何だかさらに蚊が多くなったようだ。車の通った後は、道がタイヤの摩擦で暖かくなるため、蚊が集まってくるそうだ。それを後で知った。

敵もさるもの引っ掻くもの、どんどん増える。1000匹はいるだろう。

大きさも日本の蚊の2倍はある。3倍近いかもしれない。赤いパーカーが車に泥水をかけられたように点々と黒く見える。

フードの隙間から見れば、蚊の竜巻の中にいるようだで、逃げるしかない。

いくら逃げても蚊の大群が沸いてくる。走っても叩いてもらちがあかない。それはホラー映画の世界だ。

ブライアンの歌が聞こえるようだ。

"チャーチルにはな 二つの名物があるのさ ヤア〜ヤア〜
それも夏と冬に一つずつあるのさ ヤア〜ヤア〜
それは、寒さと蚊だよ ヤア〜ヤア〜
二つが一緒にこないから 好きなんだよな ヤア〜ヤア〜
チャーチルにはな 寒さと蚊が名物さ ヤア〜ヤア〜"

とんでもない名物に当たってしまったようだ。

  *
"ブライアン、蚊の攻撃にあって凄く怖かったよ"と夕食をしながら話す。

"チャーチルでは、人を殺すのに刃物は要らないよ。裸にして外に出しておけば、蚊が身体の血を全部吸って、気がだんだん遠くなる。そして一巻の終わりさ。チャーチルで蚊だけの番組つくったら迫力あるぞ"と笑いながら蚊の話だけで盛り上がる。

黒や赤など濃い色を蚊は好むようだ。黒い頭の髪は、蚊にとっては絶好の攻撃目標になる。さらに悪いことに、出かける前にシャワーを浴び、顔にクリームを塗った。その匂いで、蚊が一段と興奮したようだ。

夏になれば当たり前のことかも知れないが、なれない者にとっては、精神異状をきたす。その後一時間くらい、食事をしていても、胸の動悸が治まらない。それを見て、ブライアンは、ただ腹を抱えて笑うだけだ。

(次回も、痒くなる話を続けよう)

(3)まっしぐら

 

 

 

 

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(C)1997-2006,Hisa.