チャーチルの夏、命輝くところ

 

 [HOME] [新着情報] [目次] [講座シロクマ] [シロクマinチャーチル] [フォトギャラリー] [玉手箱] [素材] [掲示板]  

         

シロクマの涙

 


 

地球温暖化〜シロクマの母子

(その四)シロクマの世界三大棲息地。

野生のシロクマの一生について、意外とわかっていない。それは目に触れる機会が少ないからだ。ほとんど推論の域を脱していない。

"シロクマの頭数は、1950年代と比べると増えている。当時は軍隊がチャーチルにいたから、撃ち殺されるシロクマが多かった"と言われている。しかし、正確な頭数となると記録は残っていない。さぞかし兵隊は銃を持っているし、たくさん撃ち殺したのだろうなとなんとなく納得させられている。

私達が、2〜4歳くらいの頃、その記憶があやふやなうえ、何度も聞かされているうちに、事実として、刷り込まれてしまう。まるで、自分が体験したかのように吹聴して回る。

ましてや野生のシロクマの誕生となると、何人の人がその一部始終を見届けることができるのだろう。    
               *
誰でも居心地のよい場所を一つくらいは持っている。人との関係が適度の距離を保っていれば結構楽しい。運動クラブ、行きつけのレストラン、飲み屋、そこへ行けば、いろいろな情報が聞ける。仲間も増えるし、時には人生の師のような人にも出会える。ついでに嫌な奴もいることもある。

チャーチルには、一軒だけのパン屋(兼レストラン)、Gypsy's Bakeryがある。普段はガラガラで、本を読んだり、手紙を書いたり、時間つぶしにはもってこいだ。

秋、シロクマが見られるシーズンになると、人口1000人も満たないこの村に、観光客や観光業者が1000人近くがどっと押し寄せてくる。レンタカーは予約で一杯になり、宿代も倍にはなる。何もかもが売り手市場になる。一年前に、宿など予約するのは常識になる。

Gypsy's Bakeryにも観光客がやってくる。100人くらい席があっても、この時期は満席となる。こんな辺ぴな所なのに、予約がなしでは夕飯にはありつけない。チャーチルでは、レストランやホテルの数が限られている。

もっともシロクマが見られるシーズン(10月の下旬から11月の上旬)を除けば、村から観光の字は消えてしまう。歩く人、車両の往来、全てだ。レストラン、ホテル、観光事務所もほとんど閉鎖だ。ゴーストタウンになる。

居心地の良さでは、Gypsy'sはチャーチルでは、抜群だ。

"もしもし、18:30に夕食の席を予約できますか。一人なんですけど"と、繁忙期なので遠慮しながら電話をする。

"ごめんなさい!21時まで満席です"と断られる。電話口から、ワインやビールを飲んでいるのだろう、ざわめきが聞こえてくる。やもえない。こんなシーズンだもの、と観念するそばから、空腹が襲ってくる。

電話を置いてから一分も経たない、"リ〜ンリ〜ン"電話の呼び出し音だ。

"もしもし!Hisaか?今、電話したか?"、Gypsy'sのオーナーからだ。"今、電話に出たのは息子なんだ。Hisaとは知らずに、ごめんな。Hisaなら一人でもOKさ"

"じゃあ今、直ぐに行くからね"と、感激して返事をする。

食事後、支払いのためにレジへ行くと、"Hisa今忙しいんだ。支払いは次にしてくれ!!支払い金額は覚えておいてね"。いつもこんな調子だ。だからチャーチルに着くと真っ先に、ここへ来る。"来たぞ!!"と挨拶に行く。

Gypsy'sは、外の寒気が流れ込まないように、二重ドアーになっている。氷点下30度以下ともなれば、寒さが入り込んだら厳しい。

最初のドアーを開けたところに、いろいろな情報が張ってある。映画会など村の催し物、探し物、大安売り、"冷蔵庫売りたい""子ネコ生まれた。欲しい人、アンまで電話を下さい"など情報に事欠かない。

入り口に近くに8〜10人座れるテーブルがある。このテーブルは、どんなに忙しい時でも予約は取らない。ここは村人たち専用のテーブルとなっているからだ。

テーブルの上には、砂糖、コショウ、塩がビンに入れておいてある。それに天気予報図だ。インターネットからのコピーのようだ。席につくとまず、天気予報を見る。これが日課だ。

来る顔ぶれは時間帯によって違う、朝は、仕事の前の人たちの朝食やコーヒータイムだ。その日のフライトのため、朝食中のパイロットなどのクルー、村の観光ガイド、汽車が来なければチャーチルの駅員、B&Bのオーナーなど多士済々だ。

コーヒーだけの人もいる。いつの間にか私もその一人になっていた。いつも注文するのは、カプチーノ。

村の情報、人探し、頼みごとなどなんでもOK.。今朝は汽車が遅れた、誰かの家の裏庭にシロクマが出た。昨夜、誰かが車ごと雪の中に突っ込んだ。風が強くて、メガネを飛ばされた人がいる。黙って座っているだけでも退屈はしない。

”おい!誰かHisaに車を貸してやってくれないか。レンタカー屋にもなくて彼は困っているんだ"といって探してくれたこともある。

季節が違うため体験できないことでも、ここで聞けば誰かが教えてくれる。村のゴシップもここではつつぬけ。話が次々に語られるうちに、何倍にも膨れ上がる。ここは極北の井戸端会議場だ。

大きな写真入のメニューが正面の壁に張ってある。その他の壁には所狭しとチャーチルで撮られた写真が飾ってある。そのほとんどは、地元か世界的に有名な野生動物写真家のものばかりだ。

シロフクロウ、北極ギツネ、北極ウサギ、それにたくさんのシロクマだ。中には親子のかわいらしい写真もある。極北の風景も勿論だ。

Gypsy'sのオーナー、太っちょのトニーが、”Hisa!今度来る時、お前も写真を持ってこいよ。店に飾るから”と言ってくれる。

チャーチルは、シロクマの世界三大棲息地の一つであるから、この店でもシロクマの写真は欠かせない。

世界のシロクマの数は、22.000頭で、そのうちの60%はカナダにいる。(WWF status report)

シロクマの棲息地は、主食のアザラシ狩ができ、出来ない時(夏)にはそれを補う食物が得られる。それに子供の出産のための巣穴の確保が出来る場所になる。

そのためには、狩のための基地にする氷のパックがあり、アザラシが出産や息継ぎのために現われる結氷しない水面があるところだ。北極点など永久に凍っているところでは、シロクマはアザラシ狩が出来ない。そこはシロクマが棲息することは出来ない。

こんな条件にあった代表的な地が、ロシアのWrangel Island、Kong Karls Land Svalbard、そしてチャーチルだ。(Enviroment Canada)

安全で、確実にシロクマが見られるのは、世界中探してもチャーチルだけだろう。(つづく)

  (戻る)     (目次へ)  (次へ)

 

 
     
 

 

(C)1997-2001,Hisa.