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野生の教え〜野生に聴く、そしてその技を読む
『シロクマ、ホッキョクグマの不思議』 (その二) シロクマ、ホッキョクグマの共食い?〜戦い (観察日記より)
* 双眼鏡でじっと観察していたブライアンが”見ろよ!クマが闘いを始めるぞ"と叫ぶ. 先ほどまで鼻を突き合わせていたクマ達だ。25メートルだろうか撮影には十分な距離だ。 最初は鼻をあわせたりしていた。大きなクマのほうが盛んに誘いをかける。時には、立ち上げるそぶりをも見せるが、片方は伏せたりして戦いを避けているようにも見える。そのうちに400〜650キロのクマが立ち上がり、組み合ったり、寝技までするのだ。時には、体重の乗った強力なプッシュやパンチを食らわせる。大きくのけぞるが、太い首が、何もなかったようにその力を受け、耐える。
相手の顔に、大きな腕で、張り手を食らわせる。時には地底から聞こえてくるような低い吠え声で吠える。”ドスン、ドスン”と音をさせながら、あたりの氷や雪を蹴散らし、巻き上げて、体をぶつけ合う。首などに噛みつき押さえ込もうとする。丈夫な毛皮のためか、痛さなど感じている様子はない。 風は冷たかろうと、シロクマの取っ組み合いはやまず、いっそう激しくなる。少しずつ、我々のほうに移動しながらの闘いだ。撮影にはチャンスだ。 フィルムを入れ替える時間が惜しい、カメラを変える。 30分くらい格闘をしただろうか。そのうちに、一頭がまだ挑発を続けるが、もう一頭は動きを止め、向き合ったままで、”は〜、は〜”と暑そうに息を整えたりする。激しい動きで疲れたのか、ゆっくりと横になる。 その時、一頭がまるで儀式のように、体を氷や雪にこすり付け始める。時にはゴロゴロと転がりまわったらいもする。体を冷やそうとしているのだろうか?それとも汗でも拭いているようにも見える。 肩の高さは、1.6メートル、立てば4メートル近くもある。もちろん相手に大怪我をさせたり、殺したりするようなことはない。しばらくすると、二頭とも寝そべってしまう。まるで何もなかったように。この肉食獣のシロクマも、相手を食べるどころか、まるで”心の病(ストレス)は身体(運動)で治せ”と言いた気である。 この光景を前にしては、どんなカメラマンでも血が騒ぐだろう。距離があっても、カメラをつい構えてしまう。フィルムを交換する時間さえ惜しい。テレビなどでよく見る”かわいい、大きい、しなやか”などの説明とはまるで違う。 冷たい風のなかでは指先が凍傷になる。帰国した後でも、凍傷でしびれた指先をもまなければならないことがる。カメラを担いで、チャーチルへ八年も訪れて自然を眺めていると、いつも不思議に出会う。だから、何日も一人きりで野生動物を見つめていることもできる。退屈と言う言葉はここにはない。こんな空っぽのような世界なのに。
目を閉じて、冷たい空気を胸いっぱいに吸い込む。それからゆっくりあたりを見渡すが、我々しかいない。極北の空間を独り占めのしていた。それも陸上最大の肉食獣を目の前にして・・・・・・・ここは極北なんだ。 * かって、人間が人間を「共食い」をする時代があった。パプアニューギニアであった共食いの慣習もその一つである。食べた人たちは「クールー病」になった。この病気は、症状や病原体もヤコブ病と名づけられプリオン感染である。まさに話題の狂牛病と同じ種類の病気だ。 狂牛病は、草食動物の牛に同種の牛や羊の肉を飼料とした。牛同士の同じ種は共食いはしないが、人間が「共食い」させてしまった。またその飼料で育った牛を食べた人間もうつっていった。クールー病で死んだ患者の脳物質をチンパンジーに注射したら、2,3年後に同じ症状で発病したという。 気味の悪さは、DNAの構成の違いはあっても、牛やサルも、考えているより人間にとって同種の動物であるのかもしれない。彼らも、この病気では、同じような痛さ、苦しみ、悲しみを持って生きているのかもしれない。 食を考えた時、同じ種の仲間を食べることは、効率や栄養の面から考えても手短な方法である。しかし意外と少ない。種族を残す力が働いているのかもしれない。 人間同士の共食いは、やましい気持ちが働く。動物の世界では、他にも理由があるのかもしれない。人間が生まれるより昔から、動物は、共食いをすると病気になることを何らかの恐怖として感じるシステムを持っているとするなら・・・・何を彼らから学んだらよいのだろう。 宗教でも、食肉を禁じたり、制限をつける。根底にあるのは、そのやましい気持ちだけでないのかもしれない。肉食を退けて、菜食を説くのは宗教だけでなく、学者や哲学者の中にもは、ピタゴラス、プラトン、ルソー、トルストイ、孔子などもいたと聞く。 彼らが菜食を説くのも、人間が生存に関わりのあった事柄から学んだのかもしれない。まだまだ野生の教えを学ぶ旅は終わりそうもない。
自分の体験が特別なのか?人間だけの常識で何事もくくろうとすることに無理があるのかもしれない。教育でも、経営でもだ。 本当は、プロなんてこの世にいないのかもしれない。人間が自分たちを地球上の特別な生き物と信じ込んでしまい、身勝手な常識の中に押し込もうとしているだけだ。そのほうが分かりやすいから。手付かずの世界、野生の記憶を忘れてしまっているからかもしれない。(完) 読まれたら感想を掲示板に投稿していただければ幸いです。参考にさせていただきます。
予告 『極北の知恵・技〜生きるための叡智』
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『しろくま、ホッキョクグマが歩く町、チャーチルの人達』 (その九) 欧州人の到来とクリー・インディアン
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