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(限りある命、今日は何が出来るだろう)

 野生の教え〜野生に聴く、そしてその技を読む

『シロクマ、ホッキョクグマの不思議』 

メディア、書籍、インテーネットなどの情報が、正しいかどうかの区別なく津波のように襲い掛かってくる。実体験しなくても、一通り知った気になれる。

科学者(研究者)のたまたまの一体験でさえも、その名において情報が駆け巡る。するといつの間にか常識となってしまうことがある。もし肩書きが高名な科学者であったりすれば、駆け巡り方は早い。そのため常識と科学者と極北の達人(自然観測者)たちに間で、ほぞが合わなくなる。シロクマのこととなるとその不思議はたくさんありそうだ。

 

(その一) シロクマ、ホッキョクグマの共食い?〜挨拶             (観察日記より)

シロクマは、2歳過ぎると母親から離れて単独に行動する。それまでに母親から生きるため技を学ぶ。何を食べたらよいのか、何を恐れたらいいのか。子離れして、初めてメスグマは次の命をはらむことが出来る。

シロクマは成長しても、試練は終わらない。飢え、厳しい気象条件、そして温暖化など気候変動温暖化など様々だ。

村から東へ30分走った時、”Hisa!今年は、早いなあ"とブライアンが指を差す。湖沼の間に二頭のシロクマを発見する。闘争心が強いはずなのに、二頭のオスのシロクマが、お互いの鼻を近づけて匂いをかいでいるようだ。

この時期では、どこを向いても緑の絨毯に覆われた夏の日を思い出すことが出来ない。枯れ草となって、雪や氷で春を待ち続ける。すでに何度かの雪の日があった。早いときには、8月の終わりには雪が降る。9月の半ばになると、極北では秋も深まる。道端には、氷がはる。

10月になると、風が強い日に外出するとき、厚手のパーカー、重い耐寒靴なしと言うわけにはいかない。なにせここは、氷の王国なのだ。

”あれはな。秋になって海岸線に集まるクマ同士が、お互いを確認しあっているのだぞ。それにしても、シロクマは、温暖化で夏が長くなりアザラシ狩りが出来ないため、飢えているのだろうな"

近くに人間が頑丈なトラックに乗り、銃を構えていると言うのに、シロクマたちは気にするそぶりも見せない。我々がこのクマを見つけてからすでに一週間はたつ。最初は警戒を見せたが、早いうちにこのトラックも覚えてしまったようだ。シロクマの賢さが目に付く。

クマは近づいてくるかも知れない。油断は出来ない。

クマ達の挨拶も、”おまえ!去年会ったような気がするな。お前はまだ若いな、随分太っているけど、なにを食べたのだ!"。まるで旧友にあったようにゆったりとしたそぶりを見せる。

海はシャーベット状に凍っているが、これではシロクマが、氷に乗ってアザラシ狩りはできない。

 

11月遅くまでかかるだろう。時には、海岸で8頭ものオスのシロクマが集まって、氷のはるのを待っているのに出会ったこともある。ここでは、恒例の秋の行事である。

"ブライアン!飢えたシロクマの共食いを見たことあるか?”とを訊ねる。

カマキリ、ザリガニ、鈴虫など共食いをする生きものは、身近に目にする。飢えていればなおさらのことだ。

”チャーチルんで生まれて育って、この30年間、多くのシロクマを見てきたが、共食いしているのは出会ったことがない。こぐまが襲われた話は、よく聞くけどな"

ウサギ、犬、猫など子供を持っている動物の親は、想像もつかない行動をする。敵に会うとと、子育てを放棄する。子供に餌をやらなくなったり、殺して食べてしまう場合もある。その異常な行動は、子供をとられないとする極端な表現なのか、子供が敵に見つからないように食べるのか。

ブライアンの話を聞くと謎が深まる。食べるものがなくなれば、野生動物も共食いもあるのが当然と思う自分の常識にあきれる。

”Hisa! 共食いというのは、自然界の摂理と思うだろう。残酷なことだと思うだろう。でもな。人間の共食いにはかなわないぞ。それは戦争さ。テロさ。悲しいけどな。その点多くの野生動物は違うぞ。むしろ避ける。"と意外なことを言い出す。

野生動物の世界では、同じ種類では殺したり食べたりすることは滅多にない。

人生のほとんどをチャーチルで過ごしたブライアンは極北の達人だ。見かけは、気難しいが、森羅万象の観察力にはいつも舌を巻く。彼の幼友達に聞いても、その力は子供の頃からだったと聞く。

科学者や、我こそは野生動物の写真家だと人たちでも、彼と議論を始めたら、勝敗は明らかだ。中には彼と議論したがらない人もいる。そのユニークさゆえに、彼の評価はいつも二つに分かられる。

彼といると、私はいつも聞き手だ。彼の意見は、体験から来るものばかりだ。それも飛び切りの体験ばかりだ。その体験を聞かせてくれるなんて、最高の幸せだ。

”ども食いのないのは、なぜだ!!”

 

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(C)1997-2006,Hisa.