チャーチルの夏、命輝くところ
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チャーチルの夏、そこは命が輝くところ
 こうしてチャーチルでオオカミに出会った
(9)

(その九)オオカミ"ツンドラ"との会話〜ボディーランゲージ

人は何気なく、身についた姿勢を体にあらわす。歩き方や身のこなし方で、その人の印象や心の状態が読める。

”いらっしゃいませ!”と言わんばかりに,前かがみにして手を合わせる。これは丁寧に客に対応する商人の姿だ。子供を抱きしめることで、愛情を伝えようとする母親それに応えるかのようにし信頼を表すため抱きつく幼子。

あるときはガックリと肩をおとし、悲しい後姿を見せる。しぐさと言うボディーランゲージで分かる。言わずか語らずに心と心、またの会う日をその目で誓う歌があった。人間は言葉があるばかりに、いつの間にか体での表現は忘れてしまっているのだろう。
        

”ツンドラ”の行動は、犬たちに対して威嚇してるのかわからない。距離は数メートルだ。何をしようとしているのだろう。まだ、攻撃をする気はないかもしれない。

今までにシロクマが犬を襲おうとするのを何度もみたことがある。その時には、頭を低くして、息ずかいも荒く、近づいてくる。犬をえさとして考えている姿だ。

”ツンドラ”は、どうするのだろう。なにを考えているのだろうかはっきりしない。まだその動きは慎重だ。

”ツンドラ”に会ったばかりの時は、耳、頭も尾も上げて、毛さえも逆立てて、こちらを睨んだ。体中を使って、できるだけ自分を大きく見せようとしていたのだ。顔中の筋肉を使って皺をよせて戦闘十分の構えを取った。

今はすこし違う。頭を下げているし、耳が後ろに倒している。全く逆だ。何を伝えようとしているのだろう。顔前面にしわを寄せて、牙をむき出しているのかここからでは見えない。

トラックの位置が悪い。

          

犬たちがつながれているあたりに、尿を少しずつしながらマーキングをはじめる。"ここまでは俺のテリトリーだ。お前たち。分かったな?"、”ツンドラ”は犬たちに印籠を渡しているようだ。見方によっては犬のご機嫌を伺いながら、近づいてるようにも見える。

”ツンドラ”にとって私の存在などまるでない。でも時々こちらを見る目つきは、私との距離を常に測っているのかもしれない。耳もしょっちゅう動かしている。”Hisa!お前の動きは何でも知っているんだからな。何もみていないからなんて、考えをするな!”といつでも攻撃できるとも見える。

  

犬の近くでマーキングしているツンドラが腰を下ろしたのを見た時、”あっ、ツンドラは、オスだ!!"と思わず声を出した。オオカミ特有の長い足の間にオスである証を見せた。どんな本にも、オスのオオカミは神経質だから人間に近づくことはないと書いてある。マーキングの時、オス犬のように片足を上げなかったではないか。”お前は犬の仲間ではなかったのか?”

目の前に見る事実は、幻想なのか、それとも例外なのか?それとも常識と言い伝えられたことのほうが間違いなのか。聞きかじりの知識が、いままで自分に壁を作っていたのかも知れない。

”おまえは犬の先祖ではなかったのか?"

会社などでも、完璧な企画書と思って仕事をしても成功するとは限らない。完璧は、ほんの僅かな事実を示しているに過ぎないのだ。過信すると、とんでもないことになる。勝手な思い込みをする場合が多い。これがバカの壁ということなのだろう。

       *

今の私には、そんなことはどうでもいい。オオカミが犬へ向かっている。トラックのクラクションを鳴らしながら突っ込み、犬たちを救うべきか・・・

トラックのギアーをドライブ(D)にし、右足はブレーキを踏む。いつでもトラックを発進してツンドラを追い払おうとする。

”ツンドラ”は、耳を後ろに倒して犬へ向かっている。攻撃的姿勢なのか、従順の姿勢なのか。まだ分からない。

シロクマから犬を守るために、体重が50キロもあるオス犬を鎖から離してある。その犬が、駆けつけてくる。ツンドラに対して吠えかかる。”ツンドラ”は、この犬よりはるかに大きい。体重は60キロは超えていそうだ。大きな口と牙。その姿は、精悍そのもの、体中どこを捉えても無駄がない。

まさに大自然と調和しながら、人間よりはるか昔から生き続けている野性の姿を目の前にしている。

オス犬が吠え掛かった時には、”ツンドラ”は警戒のあまり足の間に尾も入れた。やがてその尾も下げて、緩やかに振りはじめた。そのうちに、耳を後ろに倒して注意深く横になり、ほとんど腹を見せ始めた。これは、犬たちと友達になろうとしている姿勢だ。少し開いた口から歯が見える。聞こえないが、声でも呼びかけているのだろう。”くんくん”と鼻を鳴らしているのか、それとも唸り声をあげているのか。

 

次から次へと犬たちの間をまわり始めた。その足取りの軽さ、のびやかな体つき、犬とは違う。さぞかし遠くまで狩にいけそうだ。バレリーナがヒラリヒラリと踊るような身のこなしは優雅にも見える。オオカミの縄張りは広く20キロ四方もあるのも分かる気がする。

  

”ツンドラ”と犬たちの姿を見ていると、先住民の話を思い出す。、昔、先住民はメス犬を木につないで、オオカミと交配させたと言うが、この姿を見ると信じたくなる。だが最近の報告では、犬とオオカミの交配した子供は神経質で、犬とは程遠いものだったとある。

”ツンドラ”が、一頭の犬に鼻を摺り寄せたかと思うと”ワッ!!犬がツンドラの顔を噛みついた"、緊張が走る・・・・・・。オオカミが犬に対して反撃し、目の前で、殺すことはないのか?

 

(つづく〜12月11日頃、掲載予定)

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予告

『チャーチルの夏、そこは命が輝くところ
 こうしてチャーチルでオオカミに出会った』

『チャーチルの秋、そこは命が入れ替わる

(その二)シロクマが出た!!銃がなくては                     (その三)秋の散歩〜白鳥

 

『しろくま、ホッキョクグマとエスキモー犬』


 (その二)極北での犬のブリ-ダー                                (その三)待て、シロクマを撃つな !!

 

『しろくま、ホッキョクグマが歩く町、チャーチルの人達』

(その九) 欧州人の到来とクリー・インディアン 

私、メティよ

ブリザード

月に支配されて

犬の餌がなくなる

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